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調布市の地域情報ポータルサイト ちょうふどっとこむ

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風音  2010年03月10日


目取真 俊(めどるま しゅん) 作
リトルモア 2004 1365円


 この作品は第二次世界大戦末期の沖縄戦にはじまり、祖父・父・子の三代にわたる戦中戦後の激動の沖縄が背後にある。

 泣き御頭(うんかみ)は崖の上の風葬場に白い砂の半ば埋もれた遺体の頭蓋骨から高く低く響く。その音は海を渡ってきた風が眼窩を吹きぬける際に頭骨の空洞に反響して起こるのだと云われる。

 風音が鳴り出すと、聞く者は御尊(うーとうと)御尊とつぶやき、風音が暗い崖下の細い径にさまよい響いてくると胸の底までしみこみ畏敬の念にとらわれる。沖縄の地形、福木・マングローブなどの植物、蟹、大コウモリなどのいきもの、自然をからませてその時の登場人物の心の問題を掘り下げて描いている。

 自分の老いと、四十年近くごまかした記憶と、死ぬまで向かい合わねばならない清吉、また報道関係者藤井の生き残った特攻隊員としての、苦しみの中から生きる道に辿る心のあり方が緻密に丁寧に書かれている。忘れられない作品である。

                      宮の下読書会   中川輝江

読書会おすすめの一冊。

紹介:アカデミー愛とぴあ

■ 「風音」を図書館で探す ■

氷の上のボーツマン  2010年02月25日


ベンノー・プルードラ作 上田真而子訳 ヴェルナー・クレムケ絵
岩波書店 2009年 1470円


 舞台は流氷がただよう冬の港です。凍てつく寒さが続き,雪がどっさり降ったある日,3人の子どもたちが,船長さんと船で暮らしている子犬のボーツマンと遊ぼうとやって来ました。一番大きい7歳のウーヴェ,暴れ者でお調子者の6歳のヨッヘン,まだ小さい5歳の女の子カトリンです。3人はボーツマンを連れ出して,入り江にできた氷の原っぱへ遊びにいきます。

 氷の原っぱは鏡のようで,そこには静まりかえった世界が広がっていました。その先には真っ黒な海があるばかりです。ウーヴェが止めるのも聞かず,ヨッヘンと子犬のボーツマンは水際の氷の上で踊りだします。すると突然氷が割れて,ヨッヘンと子犬のボーツマンの乗った氷が切り離されてしまいます。

 ヨッヘンはジャンプをしてなんとか氷の原っぱに戻ってきましたが,子犬のボーツマンは氷の上に取り残されてしまい,ボーツマンを乗せた氷の塊はどんどん流されていきます。ウーヴェはなんとかボーツマンを助けようとしますが,ヨッヘンは恐くなって逃げ出してしまい…。はたしてボーツマンは無事に陸地に戻って来られるのでしょうか?

 この物語は1959年に旧東ドイツで出版され,2009年に初めて日本で翻訳・出版がされました。挿絵は黒と赤の二色刷りの版画で,独特の雰囲気がある素晴らしいものになっています。半世紀もの時を経て日本に紹介された,とても趣のある作品です。

児童書おすすめの1冊 小学校中学年向き

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『氷の上のボーツマン』を図書館で探す ■

宣告  2010年02月10日


加賀 乙彦 作
新潮社 2003 700円


 拘置所の朝は食事運搬車の重い音で始まる。死刑の宣告を受けた囚人達が収容されているゼロ番区は結構騒がしい。鉄格子の窓から通話、祈りの声、読経、歌声、泣き声。しかし朝の足音には敏感だ。今朝こそは、お迎えが来るのではないか、という恐怖だ。彼らはその恐れから何らかの精神不安症状を持つ。

 若い精神科医である近木はゼロ番区といえども犯罪者としてではなく、一人の人間として向き合い、話し合い手となり心に寄り添う。

 T大出の楠木は、インテリの家族ではあるが、物欲の争いが絶えない家庭に育ち、人間が信じられない。金のために殺人を犯す。神父の導きで洗礼を受けるが、墜落感発作症状に襲われる。

 叔父一家殺害の大田は飼っていた小鳥が死ぬと、自分の番だと言って発狂。学生運動の内ゲバで数人も処罰し、獄内でも革命を唱えていた唐沢は自殺。

 七人の女性殺しの砂田は硝子片での無数の傷跡があり、暴れるが近木の暖かい眼差しに触れ、解剖用遺体として役に立てることを誇りに思うと語り、消える。

 教育熱心な父に部屋に監禁され勉強を強いられた安藤は、離婚した母の家を探すうち、少女を強姦、殺害、殺人犯となり、獄内で泣き、笑い続ける。

 この小説は精神科医の著者が実際の勤務体験から観察した人間像を二十年の後、書き上げた。犯罪を犯す青少年達の裏には何があるのか。最近の殺人を犯す青少年たちを思い、その背景と、死刑とは、をつきつけられる。
                      柏読書会   今村富子

読書会おすすめの一冊。

紹介:アカデミー愛とぴあ

■ 「宣告」を図書館で探す ■

楽しいスケート遠足  2010年01月25日


ヒルダ・ファン・ストックム作/絵 ふなとよし子訳
福音館書店 2009年 1365円


 低地の多いオランダは国中に運河や水路がたくさんあり,冬になるとそれがすべて凍ります。そして大人も子どもも凍った運河でスケートをすることを楽しみにしているのです。

 エストル村に住むエベルトとアフケのふたごの兄妹もスケートができる日を心待ちにしていました。そして本格的な冬が到来すると,二人の担任の先生はクラスの子ども16人を連れ,運河を通って初めて訪れる町まで向かう一日がかりのスケート遠足を計画します。

 先生の引っ張ってくれるポールにつかまって滑ったり,氷の上に張られたテントのお店でココアを飲んだりしながら,みんなは楽しいひとときを過ごしますが,途中エベルトは魚釣り用の穴に落ちておぼれそうになってしまいます。

 びしょぬれになったエベルトは,近くの農家にお世話になりますが,そこではエベルトだけでなくクラスのみんなが雪入りのパンケーキをご馳走になるなどの温かいもてなしを受けます。その後も楽しい出来事や,少しはらはらする出来事が次々に起こります。さて無事に遠足を終えることができたのでしょうか?

 読後は,登場人物とともに遠足に行ってきたような満足感が得られます。ふたごを中心に子どもたちの姿が生き生きと描かれていることで,遠足の一日を追っただけでない厚みのある豊かな物語になっています。背景となるオランダの風物も魅力的で,作者本人により描かれた絵も大変美しく一読をおすすめしたい本です。

児童書おすすめの1冊。小学校中学年向き

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『楽しいスケート遠足』を図書館で探す ■

神の子どもたちはみな踊る  2010年01月10日


村上 春樹 作
新潮社 2002 460円


 小説の楽しみ方は、二通りある。

 まず、先入観なしで本を手に取り、その内容を一気に読み進めていく。そして個人の感性に基づいて一つ一つの内容を自分の中に取り入れ、自分の経験や感想を深める楽しみ方だ。ここまでは、本を読む人は誰でもしている事だと思う。

 そしてもうひとつの楽しみ方は、作者のこの本を書いた状況や考えを知り「そういう事だったのか」と驚き、感動し、そして新しい目でもう一度本に向かうというやり方だ。そうすると同じ内容でも全く違った見方ができ、違う本を手に取って読んでいるくらいの気がする時がある。

 この「神の子どもたちはみな踊る」も短編だけで読むのと、短編連作集の一つとして「UFOが釧路に降りる」「アイロンのある風景」「タイランド」「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」をまとめて読むのとでは違う発見がある。

 一つ一つの作品の中にどこか共通のものを感じとることができ、「一体何だろう。これは?」と自分の中に小さな疑問が残る。そして作者について調べた時、これらの作品が、一九九五年一月の阪神大震災と同じ年の三月の地下鉄サリン事件をおこした宗教団体がいたという事にいきつく。

 作者はこの不安定な年に人々がどう暮らし、何を考え、どんな事をしていたか、を物語という形で私達に伝えようとしていた。

 それを知った時、もう一度本を手に取り、今までとは違う見方で、この本を読んでいる私がいた。
                      草の実読書会  吉川智子

読書会おすすめの一冊。

紹介:アカデミー愛とぴあ

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ぼくだけの山の家  2009年12月25日


ジーン・クレイグヘッド・ジョージ作 茅野美ど里訳
偕成社 2009年 1680円


 五月のある日,少年サムはニューヨークの家を出て曽祖父の住んでいたキャッツキル山脈にある深い森に向かいました。手にしていたのは,ペンナイフ,ひも一巻き,斧,火打ち石と火打ち金,アルバイトでかせいだ40ドル。サムは森の中で一人で生活をしようと思ってやってきたのでした。

 最初は火をおこすこともうまくいきませんでしたが,ビルというおじいさんに教えてもらい,なんとかうまくできました。ベイツガという大木のうろをすみかとし,カラスの巣から卵をとってきて食べたりします。やがてハヤブサのフライトフルという相棒もでき,うさぎ,木の実などの食べ物を調達できるようになります。またヒッコリーの木ぎれを煮つめて塩を作ることにも成功しました。そんな中でサムの大好物となったのはカエルです。やわらかく煮たカエルの肉に野生タマネギ,スイレンのつぼみ,ノラニンジンを加え,ドングリの粉でとろみをつけ,カメの甲羅をお皿にして盛りつけます。

 クリスマスには心配したお父さんが様子を見に来てくれますが,サムがちゃんと生活しているのをみて安心して戻っていきます。そうして一年たったある日のこと,サム一人での森の生活は終わりを告げることになりますが……。

 大自然のなかで自分なりの工夫をし,たった一人で生活をする少年の成長していく姿にぐいぐい引き込まれ,一気に読み進みます。サムの自立を認めてくれるお父さん,サムと一緒に曽祖父の森を見つける手助けをし,サムの伸びすぎた髪の毛を切ってくれる図書館司書のミス・ターナーさん,偶然出会った大学の先生のバンドウさんなど,サムをさり気無く応援してくれる大人たちの存在も魅了的です。

 サムと一緒に冒険をしたような満足感を味わうことができる作品です。


児童書のおすすめの一冊。中学生向き

紹介:調布市立図書館 児童担当

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五重塔  2009年12月10日


幸田 露伴 作
岩波書店 1994 420円


 主人公は十兵衛という小才の利かぬ頑固な性格、技量はあるが世渡り下手な寺社建築大工で周囲から「のっそり十兵衛」と悔しいあだ名を付けられている。

 感応寺に五重塔建立の噂を聞くや、寺に乗り込み「自分にやらせて下さい」と平伏懇願する。許しが出ると一身を捧げ魔性に憑かれたように没頭する。完成後未曾有の激しい嵐に遭うが、塔は悠然とその美しい姿を聳え立たせていた。

 ご上人からも信頼厚い兄貴分の川越の源太の好意を忘れてはならない。ご上人の仏説もあり、仕事は十兵衛に譲り、なお温かいアドバイスを何度も与える。その都度けんもほろろに断る。

 嵐という人為を超えた自然の力に対し、十兵衛の技が見事に打ち勝つ様が心地良い勢いで生き生きと書かれている。

 落成式にご上人は、塔の銘に「江都の住人十兵衛これを造り川越の源太郎これを成す」と墨書両者に花を持たせた。爽やかな読後であり、楽しかった。

 が、その後十兵衛は立派な棟梁として、仕事に恵まれ輝かしい幸せな生涯を送っただろうか。生来の性格は一朝一夕には直らないので、やはり貧しい生涯になったのではと一抹の不安が過ぎる。

                      多摩川読書会   藤橋愛子

読書会おすすめの一冊。

紹介:アカデミー愛とぴあ

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