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調布市の地域情報ポータルサイト ちょうふどっとこむ

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南京の基督  2012年01月12日


芥川龍之介著

1968年 1円より


 数々の名作を残した芥川の作品の中で、これも短いながら、大変心に残る一遍です。話は、旅人が南京に行って聞いたことから始まります。
 幼くして洗礼を受けた少女「金花」は母亡きあと、病父を養い、生きるため、賎業を選ばなければなりませんでした。やがて彼女は業病に罹ってしまいます。他人に移せば治るという巷の噂の陰で、移すことを神に恐れ、悩み、十字架に祈るばかりでした。やがて、生活に行き詰まってしまいます。ある夜、見知らぬ男が現れます。彼女の中で、基督の出現と受け止められ、夢の中で、行為を肯定します。次の朝、男の姿はありませんでした。金花は病が癒えていることを知りました。
 これは、彼女の心情風景のなかで、ただ祈るだけの女から、自らの「死」と引き換えに選び採る生き方で、ここに光があてられ、さわやかな金花の世界が描かれていきます。
 一方、旅人の語り手は、例の男が業秒病を得て発狂した現実を知っていました。
 作品はこのように非科学的話と現実の話の二重構造になっていますが、流麗な文章をもって読者を引き込みます。ここにも近代文学の感動があるのではないでしょうか。

紹介:互葉読書会 水越康子

■ 『南京の基督』を図書館で探す ■

ピッグル・ウィッグルおばさんの農場  2011年12月22日


ベティ・マクドナルド作 小宮由訳

岩波書店 2011年 680円


 大うそつきの男の子、動物が大好きだけどついうっかり世話を忘れてしまう女の子、何でも分解して壊してしまう男の子…。両親の手に負えないそんな子どもも、ピッグル・ウィッグルおばさんの農場に行けばみんなおばさんが大好きになり、いつの間にか欠点も直ってしまいます。おばさんは、魔法をつかう訳でも、勿論お仕置きをする訳でもありません。子どもときちんと向き合い、一人前に扱って、犬や猫、牛や馬、豚、人間の言葉を話すオウムなど、農場のいろいろな動物たちの世話をさせるだけなのです。
 本書には、ピッグル・ウィッグルおばさんと子どもたちのお話が5話入っており、次はどんな子どもがやってくるのか、子どもたちはどんな風に変わるのか、読み進むのが楽しくなります。ピッグル・ウィッグルおばさんの他のお話は1978年に学習研究社から出版されたことがありますが,農場の話は今回が初訳。ユーモラスで温かみのあるモーリス・センダックの挿絵もお話にぴったりです。

児童書 おすすめの1冊 小学校中学年から高学年向き 

■ 『ピッグル・ウィッグルおばさんの農場』を図書館で探す ■

ハスの花の精リアン  2011年11月24日


チェン・ジャンホン作・絵 平岡敦訳 徳間書店

2011年 1800円


 むかし,ローおじさんという漁師が,湖の小さな木の舟にひとりで住んでいました。
 ある日,見知らぬおばあさんの頼みをきいたローおじさんは,お礼に種をもらいます。それを湖の浅瀬に植えると,たちまち芽が出て,葉が広がり,大きなハスの花が咲きました。
 その晩,ハスのつぼみからリアンという小さな女の子が現れます。リアンが持っていたハスで触れると,ローおじさんの舟も服もりっぱになり,おいしいごちそうまで出てくるのです。それからというもの,リアンは毎日日暮れどきになるとハスの花から出てきて,おじさんの生活を助けてくれました。
 ところが,欲張りな王さまの娘タンがその噂を聞きつけ,リアンをつかまえるためにローおじさんを牢屋に入れてしまいます。リアンはおじさんを助けるため,ひとりでお城にかけつけますが…

 「むかし,あるところに」で始まり,ハスの花から現れた小さな女の子が活躍する不思議な物語は,昔話を思わせます。ひとりぼっちだったローおじさんと小さなリアンとの絆がほほえましく,読後は心があたたかくなる一冊です。

 作者のチャン・ジャンホン氏は中国出身でパリに移住して活躍している画家です。ほかに『ウェン王子とトラ』『この世でいちばんすばらしい馬』(どちらも徳間書店)があります。どの作品も中国の伝統的水墨画の手法を用いており,大きな画面いっぱいに描かれた絵には迫力があります。

児童書おすすめの一冊。小学校低学年向き

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『ハスの花の精リアン』を図書館で探す ■

山のトムさん-ほか一篇-  2011年10月25日


石井桃子作 福音館書店

2011年 700円


 戦後間もなくのこと,北国のある山あいに,開墾者として移り住んだ家族がありました。小学生のトシちゃんと,トシちゃんのお母さんと,お母さんの友達のハナおばさんと,おばさんの甥のアキラさんの4人です。

 山の開墾者たちは,ネズミに頭を悩ませていました。というのも山の家にはたくさんのネズミがいて,夜昼構わず家じゅうを駆け回るだけでなく,人が寝ていればその鼻をかじるし,配給のお米も,地面にまいた作物の種も,本も,戸棚も,着物も,グローブも,おひなさまも,何でもかんでも食い荒らしてしまったからです。

 ネズミとりもいろいろと試してみましたが,どれも効果がありません。そこでもらわれてきたのが,子ネコのトムでした。

 えものとりの訓練のためにカエルをとってやってみせていたら,自分ではとらずに「ミャーオー!ミャーオー!」と鳴きたて,「とってくれよう!」とせがむようになってしまったり,お腹の病気にかかって散々な目にあったり,おばさんにくっついて町までやってきたものの,怖くなって逃げ出してしまったり……。トムが引き起こす騒動や武勇伝のおかげで,一家には笑いが絶えません。

 著者自身の開墾生活を元に,子ネコのトムが成長し,かけがえのない家族の一員となるまでの出来事を丁寧に描いた作品です。

 1968年に単行本として出版された『山のトムさん』に,同じ一家の登場する「パチンコ玉のテボちゃん」を加えて文庫化されました。

児童書 おすすめの1冊 小学校高学年から

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『山のトムさん』を図書館で探す ■

ミンのあたらしい名前  2011年09月25日


ジーン・リトル著 田中奈津子訳 講談社

2011年 1400円


 赤ん坊のころ親に捨てられた少女ミンは,大人を信用できず,心を閉ざしていました。そのため,里親とうまくいかず,四度目の里親にも手放されそうになります。そのとき,小児科医のジェスがその場に居合わせてミンを連れ帰り,一緒に暮らし始めます。以前,肺炎で入院した夜,そっと寄り添ってくれたジェスに,ミンは他の大人とは違うものを感じていました。自身も里子であり里親の経験もあるジェスは,感情を表さないミンの心情を察し,全てを受け入れてくれるのでした。

 クリスマスが近づき,二人はクリスマスツリーにする木を切りに出かけます。そこで,ミンは瀕死の子犬を助けます。その子犬が「子犬工場」から逃げてきたのではないかと聞き,ジェスの名づけ子トビーとともに,「子犬工場」の実態を探る計画を立てるのですが…。

 朝起きると食事の準備が整っていること,家の合鍵を持つこと,クリスマスにプレゼントを選ぶこと,そんなささやかな出来事を,ミンはジェスとの暮らしの中で初めて経験します。そして,戸惑いながらも,自分の心が徐々に開いていくのを感じます。心を閉ざし,人との距離を置くことで自分の心を守ってきたミンが,安らげる場所と友人を得て,過去を受入れ,新たな一歩を踏み出す物語で感動的な作品です

児童書 おすすめの1冊 小学校高学年から

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『ミンのあたらしい名前』を図書館で探す ■

丘はうたう 改訂  2011年08月25日


マインダート・ディヤング作 モーリス・センダック絵 脇明子訳

福音館書店 2011年 1500円


 1981年に出版され,その後絶版となっていた『丘はうたう』が,改訂,復刊されました。

 3人兄弟の末っ子のレイは,家族と一緒にトウモロコシ畑がどこまでも続くアメリカの田舎に引っ越してきました。姉のシャーリーと兄のマーティンは学校に通い,毎日学校へ行く道すがら,トウモロコシ畑の中でインディアンごっこをしたり,小川で空き缶の船を浮かべたりして遊びますが,まだ学校へ通っていないレイは,昼間はトウモロコシ畑でひとり遊びをしてすごしていました。

 そんなある日,レイはトウモロコシ畑の中でトラクターのわだちを見つけます。わだちの先は丘の上へと続き,その丘のてっぺんは柵にぐるりと囲われ,柵の中には1頭の大きくて白い馬がいました。はじめは馬を怖がっていたレイですが,お腹をすかせている様子の馬に持っていた棒つきキャンディーやりんごをやり,それから毎日馬に食べ物をやりに行くようになります。それはレイだけの秘密になるのですが…。

 広大な景色が広がるアメリカの農場を舞台に,子どもたちの冒険がみずみずしく描かれています。『かいじゅうたちのいるところ』の作者モーリス・センダックによる繊細な挿絵も物語の世界を更に広げてくれます。子ども時代の気持ちを失わず,何よりも子どもの気持ちを大切にしてくれる両親の存在が魅力的で,いつまでも忘れられない一冊になることでしょう。

児童書 おすすめの1冊 小学校高学年から

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『丘はうたう 改訂』を図書館で探す ■

ボグ・チャイルド  2011年07月25日


シヴォーン・ダウド作 千葉茂樹訳 ゴブリン書房

2011年 2000円


 物語の舞台は1981年の北アイルランド。国境近くの村で暮らす主人公の高校生ファーガスは,よく小遣い稼ぎのために,叔父のタリーと泥炭を盗みに湿地(ボグ)へ出かけていました。しかし,ある日出かけた先の湿地で,ファーガスは一人の少女の遺体を発見します。金の腕輪をしたその少女の遺体には,絞殺された跡がありました。この少女は一体いつ,どこで,誰に殺されたのか。遺体の調査のために村を訪れた考古学者の母娘と共に,ファーガスは遺体の謎を追います。

 一方,アイルランドの独立を目指すファーガスの兄ジョーは,過激なテロ活動で知られるIRA暫定派の一員で,政治犯として服役中でした。しかし,彼はその獄中で,自分達の要求が受け入れられるまで一切飲食をしないという「ハンガー・ストライキ」を決行します。このままジョーを死なせるわけにはいかないと悩むファーガスは,友人から持ちかけられた「運び屋」の仕事を引き受けることになります。

 この作品の舞台となった1980年代の北アイルランドは,「北アイルランド問題」という複雑な政治問題で大きく揺れていました。政治に全く興味のないファーガスも,この問題に否応なく巻き込まれていきます。周囲の状況に翻弄されながらも,友情や恋など様々なことを経験し,自分にできることを探っていくファーガスの姿が,この作品では鮮やかに描かれています。

 衝撃的な展開が待ち受ける最後まで,読者をぐいぐいと引っ張ってくれる1冊です。

児童書 おすすめの1冊 中学生から

紹介:調布市立図書館 児童担当

■ 『ボグ・チャイルド』を図書館で探す ■