はしれ、上へ!-つなみてんでんこ-  2013年05月08日


『はしれ、上へ!-つなみてんでんこ-』
指田和文 伊藤秀男絵 ポプラ社 2013年
  1300円

東北地方の海沿いは、昔から大きい地震が来て津波の被害を受けてきました。ぼくは、じいちゃんから「じしんがきたら、つなみがくる。」それぞれが逃げて自分で自分の命を守るように言われてきました。2011年3月11日東日本大震災。ぼくたちはまず机の下に隠れ、ジャンパーを着て帽子をかぶり、サイレンの鳴る中、坂道を駆け上がり、上へ上へと走り続けました。高台に着きもう大丈夫かと思った時、後ろからゴーッという音がして、振り返ったぼくの目に飛び込んできたのは、真っ黒な水が盛り上がって津波に飲み込まれていく建物でした。その夜ぼくたちは、避難所で夜を明かし、家族と会えたのは2日後のことでした。
 終始主人公の気持ちに寄り添い、主人公が新たな一歩を踏み出すまでが、迫力ある絵と共に描かれています。津波がきたら、どうすればよいかを「つなみてんでんこ」という言葉で、親から子へ子から孫へと伝えてきた人々の知恵を思わずにはいられません。

児童書 おすすめの1冊 小学校低学年から
『はしれ、上へ!-つなみてんでんこ-』を図書館で探す 

両手を奪われても  2013年04月17日


『両手を奪われても―シエラレオネの少女マリアトゥ』
マリアトゥ・カマラ スーザン・マクリーランド共著 村上利佳訳 汐文社 2012年
  1600円

 今も世界で最も貧しい国の一つである、アフリカ西部のシエラレオネ。この物語の語り手であるマリアトゥは、小さくても活気のある村で、皆で力を合わせて働き、友だちやいとこと楽しく遊ぶ日々を送っていました。しかし、11歳の時、内乱が勃発して生活は一変します。マリアトゥは、武装反乱軍に捕らえられ、彼らが擁する少年兵によって両手首を切断されたのです。

 反乱軍から逃げて、幸い生きながらえることのできたマリアトゥは、さらに、以前に受けたレイプによる出産、そして生まれてきた男の子の病死を経て、イギリスに渡り、次にカナダに渡ります。

 マリアトゥがユニセフの特別代表となって、自分の物語を伝えるようになった、今にいたるまでを率直に語ったドキュメント。自分の身に起きたことで自分をかばうのでなく、自分の将来を信じてどこまでも前に向かって進んでいくマリアトゥの姿が魅力的です。
 
児童書 おすすめの1冊 中学生向き
『両手を奪われても―シエラレオネの少女マリアトゥ』を図書館で探す 

ともだちのはじまり  2013年03月12日


『ともだちのはじまり』
最上一平作 みやこしあきこ絵 ポプラ社 2012年
  900円

 さとと、じゅじゅは小学1年生です。席は隣同士ですが、お互いに性格が違うと思っていたからか、あまり話をすることはありませんでした。「たかオニするもの、このゆびとーまれ!」と大きな声で言うじゅじゅを見て、さとはその指に誰もとまりにきてくれなかったらどうしようと気にかけていました。
 ある日さとは、じゅじゅに消しゴムを貸してあげたことがきっかけで、秘密を打ち明けられます。実はじゅじゅは「宇宙人」で「ハッピー星からきたハッピー星人」だと言うのです。さとはとても驚きますが、そう言われてみれば、本当に宇宙人かもしれないと思います。じゅじゅという名前も、鉄棒で前回りを連続50回もしてしまうところも「宇宙人っぽい」と、さとは思うのです。
 秘密のはなしをして以来、2人の距離は少しずつ近づいていきます。普段の元気なじゅじゅとは違う様子も垣間見えるようになります。さとの純粋さがじゅじゅを支え、じゅじゅの不思議さも、さとを楽しませていることが伝わってきます。それぞれの想いが短い言葉で語られています。
 作者最上一平氏は近年、今回紹介した本や『千年もみじ』(新日本出版社)、『ちょんまげくらのすけ』(国土社)などで幼い子どもを主人公にした作品を発表しています。それらの作品では、最上氏の中に生きる子どもが生き生きと描かれています。その子どもたちが、読者に支持されるとともに、大人の読者の子ども時代の記憶を鮮明に呼び覚まし、胸を打ちます。

児童書 おすすめの1冊 低学年向き

『ともだちのはじまり』を図書館で探す 

緑の精にまた会う日  2013年02月21日


『緑の精にまた会う日』
リンダ・ニューベリー作 野の水生訳 平澤朋子絵 徳間書店 2012年
  1500円

ルーシーは、田舎のおじいちゃんが聞かせてくれる、緑の精ロブの話が大好き。ロブは気に入った人のところにとどまり、庭仕事などを手伝ってくれる妖精ですが、多くの人は姿を見ることができません。しかし、おじいちゃんとルーシーだけはおじいちゃんの庭で暮らすロブを見ることができたのです。ところが、突然おじいちゃんが亡くなり、庭が取り壊されてしまいます。ロブの行く末を心配したルーシーは、自分のもとへ来るよう、彼に手紙を残します。
一方、ロブは庭がなくなることを知ると、新しい住みかを求めて旅に出ます。車や電車の行き交う道のりで、ロブは何度も危険な目にあいます。いろいろな人との出会いも決して幸せなものではありませんでした。それでもロブはルーシーの住む街のほうへ、何かに導かれるように進み続けます。

不思議な妖精ロブの姿が実在するかのごとく巧みに描かれています。彼を敬い、慈しむおじいちゃんとルーシーにも好感が持てます。信じる気持ちと美しい緑がいかに大切なものかを教えてくれる1冊です。

児童書おすすめの一冊。高学年向き

『緑の精にまた会う日』を図書館で探す 

エーミルはいたずらっ子  2013年01月18日


『エーミルはいたずらっ子』
アストリッド・リンドグレーン作 石井登志子訳 岩波書店 2012年
  640円

レンネベルク村のカットフルト農場に、エーミルという5歳の男の子がいました。エーミルは天使のようにかわいらしい男の子でしたが、気が強くて腕白で、少しもじっとしていません。
「エーミルがスープ鉢に頭をつっこんだ日のこと」では、カットフルト農場の夕ご飯のごちそうが肉入りスープだった日、エーミルはスープ鉢の底に少し残ったスープまで食べようと、スープ鉢に頭をつっこみ、抜けなくなってしまいます。鉢を割れば簡単ですが、お父さんは大切な鉢を割りたくありません。そこで、お父さんとお母さんが考えた方法は…。
このほか、エーミルが活躍して泥棒を捕まえるおはなしなど、エーミルの引き起こす愉快な出来事が2話収録されています。この作品には続きがあります。
エーミルが主人公のシリーズは、農場で育った作者リンドグレーン自身の経験と、おはなし好きな作者の父が語った子どもの頃のいたずらが元になり、誕生しました。軽快なタッチで登場人物を生き生きと描いた挿絵も魅力的で、読後明るく温かな気持ちになる作品です。

児童書 おすすめの1冊 小学校低学年向き

『エーミルはいたずらっ子』を図書館で探す 

シフト  2012年12月10日


『シフト』
ジェニファー・ブラッドベリ著 小梨直訳 福音館書店 2012年
  1700円

 アメリカのウェストバージニア州に暮らす主人公クリスとその親友ウィンは,高校卒業後,大学が始まるまでの夏休みの間に,2カ月かけて大陸を横断する自転車旅行に出かけます。しかし,ゴールの西海岸に到着する寸前,突然ウィンが姿をくらましてしまいます。置き去りにされたクリスは,急いで後を追おうとしましたが,彼を見つけだすことはできず,結局一人で旅を終えて帰ることになりました。
 その2週間後,大学が始まってもウィンは戻ってきませんでした。ウィンの父親はFBIの知人に依頼し,クリスから息子の居所を聞き出そうとします。そんな時,クリスの元に2通の絵はがきが届きます。旅での会話を思い出し,それがウィンからのメッセージだと気がついたクリスは,彼を捜すために再び二人で通った道を辿ります。

 この作品は,著者のブラッドベリ氏が,夫と一緒に大陸南西部を自転車で横断した体験から生まれたものです。著者自身の体験を元に描かれたクリスとウィンの自転車旅行は,予想外のトラブルで大変な目に遭ったり,思いがけない人々と出会ったりと,旅ならではの楽しさを伝えてくれます。
 過去と現在の話が交互に語られ,次第にウィン失踪の謎が明かされていく展開は,読者を物語に引き込みます。親友との別れを爽やかに描ききった1冊です。

 児童書おすすめの1冊。中学生から

『シフト』を図書館で探す 

パンとバラ―ローザとジェイクの物語  2012年11月22日


『パンとバラ―ローザとジェイクの物語』
キャサリン・パターソン作 岡本浜江訳 偕成社  2012年9月
  1600円

1912年のアメリカ東部ローレンスの町で実際にあったストライキを題材にしたお話です。
マサチューセッツ州のローレンスにある工場で働くイタリア人の労働者たちは,大変つらい労働条件のなか,わずかな賃金だけで家族を養う暮らしを強いられていました。主人公のローザの母や姉も工場で働いていましたが,少しでも労働条件がよくなるようにと,ストライキに加わります。学校でストライキはよくない,とフィンチ先生に教えられローザは,心配と不安の日々を送ります。
一方,学校にも通わずに働く貧しい少年のジェイクは,飲んだくれの父親からの暴力を恐れ,町のゴミ山で寝泊まりをする日々を送っていました。そんなある日,ローザとジェイクは出会い,ローザは母親に内緒で一晩だけジェイクを自分の家に泊めます。
 次第にストライキは激しくなり,工場の周辺に住む子どもたちは,他の地域へ疎開することになります。ローザはヴァーモントに行くことになります。そして,ローザの弟と偽りジェイクもヴァーモントに向かいます。長い列車の旅の後で到着した二人を待っていたのは,年をとったジェルバーティ夫婦でした。そこは,ローレンスの厳しい環境とは正反対の,豊かで思いやりにあふれた生活でした。家族のあたたかさが伝わる作品です。
 
児童書 おすすめの1冊 中学生向き


■ 『パンとバラ―ローザとジェイクの物語』を図書館で探す