四十一番の少年

一般書

投稿日:2012年2月27日

井上 ひさし 著
1974年

四十一番という数字は、S市郊外のカトリック系養護施設「ナザレト・ホーム」に利雄が入所した折に付された洗濯番号のことである。日常生活に要する身の回りの品すべてに記入された。幼児期に父と死別、母も結核で療養生活に入ったために、近県からの入所となった。
二十数年振りに出張でS市を訪れた利雄が、ふらりと坂道をあがった美しい丘の上にそのホームは見えた。K修道士に名を呼ばれ館の中に入り、曽て仲間たちの木札を眺めた時、十五番つまり「松尾昌吉」の名に、一気に体が凍りついた。記憶を遡ると、昌吉との初対面で目を合わせたとき、利雄は「針で止められた蝶」となってしまい、それが最後まで続いた。彼の前では、母という言葉は禁句。巧妙な言葉と暴力によるいじめ、しかし利雄は、それらに堪える術(抵抗しない)を体得していく。昌吉の鞭のように燃える恐怖の手は、やがて昌吉自身の将来をも締め括ってしまったのである。「懐かしさと恐ろしさと後ろめたさが絡み合った歪んだ表情」になってゆく。
作者の自伝的作品と言われるこの暗い回想を辿ると、敗戦後経済的にも苦しかった頃、現在のような社会福祉も及ばぬ頃の少年たちの心情が伝わってくるような思いである。昌吉の夢はアメリカの大学を出て、美人の妻を向かえ、金持ちの社長になることであった。利雄も含めて、幸福を求めて過ごした日々が報われていることを信じて。

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