ボグ・チャイルド
投稿日:2011年7月25日物語の舞台は1981年の北アイルランド。国境近くの村で暮らす主人公の高校生ファーガスは,よく小遣い稼ぎのために,叔父のタリーと泥炭を盗みに湿地(ボグ)へ出かけていました。しかし,ある日出かけた先の湿地で,ファーガスは一人の少女の遺体を発見します。金の腕輪をしたその少女の遺体には,絞殺された跡がありました。この少女は一体いつ,どこで,誰に殺されたのか。遺体の調査のために村を訪れた考古学者の母娘と共に,ファーガスは遺体の謎を追います。
一方,アイルランドの独立を目指すファーガスの兄ジョーは,過激なテロ活動で知られるIRA暫定派の一員で,政治犯として服役中でした。しかし,彼はその獄中で,自分達の要求が受け入れられるまで一切飲食をしないという「ハンガー・ストライキ」を決行します。このままジョーを死なせるわけにはいかないと悩むファーガスは,友人から持ちかけられた「運び屋」の仕事を引き受けることになります。
この作品の舞台となった1980年代の北アイルランドは,「北アイルランド問題」という複雑な政治問題で大きく揺れていました。政治に全く興味のないファーガスも,この問題に否応なく巻き込まれていきます。周囲の状況に翻弄されながらも,友情や恋など様々なことを経験し,自分にできることを探っていくファーガスの姿が,この作品では鮮やかに描かれています。
衝撃的な展開が待ち受ける最後まで,読者をぐいぐいと引っ張ってくれる1冊です。
紹介:調布市立図書館 児童担当