ライオンとであった少女
投稿日:2010年6月25日バーリー・ドハーティ 著 斎藤倫子 訳
主婦の友社 2010年 1680円
それぞれ別のアフリカ・タンザニアの黒人と白人の間に生まれた二人の少女の話が交互に語られる物語。
アベラは9歳、タンザニアの田舎に住む少女。父の死後,母を連れて病院へ行く途中白人の女性が見かねてお金をくれたにもかかわらず,その母もエイズで亡くなった。アベラの人生は転がるように変わっていく。突然帰ってきた叔父はイギリスでの不法滞在を合法化するため実子と偽ってアベラを無理やりイギリスに連れ出す。
アフリカを遠く離れアベラの居場所はどこにもなかった。外に出ることも姿を現すこともできない生活が始まるがアベラは檻のような部屋から飛び出した。表を歩く子どもたちにくっついて行った先の学校でアベラはわずかな英語力で自分の身の上を訴えた。アベラは正式にイギリスで暮らすことが許され,養子縁組で里親が見つかるまで仮里親の世話になるが,この家庭にはアベラのような子どもが出たり入ったりしていた。
祖母のもとで暮らしたいアベラは,タンザニアに帰ろうと決心し仮里親のもとを逃げ出した。途中危険な男の手を逃れ助けられた家でアベラははじめて担当のソーシャルワーカーに出会った。このワーカーこそ母を助けようとしてくれたあの白人女性だった。そしてもっともアベラにふさわしい里親が見つかることになる。
一方ローザは13歳,イギリスのシェフィールドに住む少女。母親と二人暮らしだが,近くに住む祖父母にも愛情を受けて,母娘共通の趣味を楽しみながら,豊かに暮らしていた。だが,ローザの悩みは母が里子を欲しがっていること。自分の知らないうちに「養子縁組協会」のカウンセラーに相談していた。ローザは自分がいるのに,なぜ母は他の子どもを欲しがるのか分からないし許せない。カウンセラーはローザに本当の気持ちを素直に書くようにとノートをくれた。やがてローザは母が本心から愛情深く困っている子どもを助けたい一心であること,その母の気持ちを理解して,ローザは一歩成長し養子を迎えることを承諾する。
厳しい環境の中に生まれ必死に生きるアベラとそれと対照的に豊かな生活をするローザ,二人の暮らしと心の中を丁寧に描いた作品。悲惨な生い立ちながらもそれに立ち向かっていくアベラの勇気と賢さに感動するとともに,母も祖父母もカウンセラーもローザに無理強いをせず,ローザの気持ちが自然に新しい家族を受け入れられるように変わっていくことを許容する環境がすばらしい。
タイトルは次の事件から取ったと思われる。母親を失い抜け殻のように歩くアベラの目の前に突然ライオンが現れた。この危機一髪のとき,「強くなりなさい。私のアベラ。強くなるのよ」と母の言葉が何度も響き,父も祖母も傍らに立ち自分を支えているのを感じた。死にたいと思っていたアベラは,ライオンとであったとき実は自分が生きたいと思っていることを知ったのである。
紹介:調布市立図書館 児童担当