世の中への扉 野生動物のお医者さん

児童書(こども)

投稿日:2010年5月25日

齊藤 慶輔 著
講談社 2009年 1155円

午後4時,北海道にある「釧路湿原野生生物保護センター」に「動けなくなっているオジロワシが発見された」との連絡が入りました。センターの獣医師である齊藤先生は,オレンジ色に染まる釧路湿原を車で出発して,2時間以上走り続けオジロワシを保護してくれている動物病院に到着しました。帰りも長時間の道のりです。途中の駐車場で車を止め,ワシのショックと脱水症状をやわらげるため注射を2本打ちました。センターに着くと休む間もなく早速治療開始です。オジロワシは重体でしたが,次の日には目を開き,その後肉の塊を差し出せば夢中で飲み込むまでに回復しました。
「野生動物をどう治すか」これには教科書もお手本もありません。では,どうしたらよいか。齊藤先生は,野生の鳥の自然な状態をよく知っていると,目の前の鳥が今どういう状態にあるのかがよく分かると述べています。
健康な鳥は体を冷やさないように片脚立ちをしています。ですから目の前の鳥が長時間立つ脚を代えていなかったら,上げているほうの脚を動かせないような痛みを抱えている可能性があるというのです。また,野生動物用の医療機器はありませんから,集中治療室には赤ちゃん用の保育器を置いて治療にあたっています。
野生動物のお医者さんは,病気を治して終わりというわけにはいきません。何故なら,元気になった鳥を「野生復帰」させなくてはならないからです。でも,すべての鳥を野に帰せるわけではありません。その時はどうするか。この本は私たちが知らない,いろいろなことを教えてくれます。
幼少期をフランスで過ごした齊藤先生がどうして野生動物のお医者さんになったか,自分の仕事を理解してもらうためにどういう努力をしてきたのか・・・映画「ウルルの森の物語」のモデルとなった齊藤先生の魅力が伝わってくる1冊です。
児童書おすすめの1冊 小学校高学年向き
紹介:調布市立図書館 児童担当

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