群青の湖 (ぐんじょうのうみ)

一般書

投稿日:2009年6月10日

芝木好子 作
講談社 1993  621円

主人公の端子は、東京・四谷で生まれ、大学の研究室で染色を学んでいたが、恋人で近江出身の青年と結ばれ身籠る。琵琶湖畔の旧家に嫁ぎ、入籍もされないまゝ、女児、桜子を産む。義父母に盡くし旧家での報われない暮らしのなかで、若くして病死する義兄が、看護する端子の美の感性を見抜き、湖北の奥深い湖面の群青の美と神秘さを暗示する。旧家の中で、余所者として扱われ、戸惑うばかりであるが、美を求める火種は消えることはない。
やがて夫に裏切られ、自殺の場所を求めて湖北に行くが未遂に終わる。東京に戻り、旧家に対する愛憎をかなたに、湖北の紺碧から濃紺に深まる様子や、湖の縁辺を飾る夕暮の神秘性を求めて、染色と織物に賭ける道を選ぶ。
芝木好子は社会が移り変わりゆく中、すたれ、孤立してゆく江戸の伝統文化、芸能、工芸などの世界を、女性の行き方を軸に小説の中で展開してきた。六十八歳のとき、染色工芸家の個展で「湖北残雪」という題の着物に出会い、その着物が語りかける奥琵琶湖の冬景色の澄んだ青に心を奪われる。
著者は、その深さを求めて染色と織物の伝統が今も息づく近江、巧木、大原を訪ね、現物の「織物」を核としながらこの物語を生んだ。
精神的に自立し、さまざまな運命と出会い、自分を磨いて生きる女性を書き続けた著者が、晩年に精魂籠めて書き上げた熱い思いが伝わってくる。
柏読書会 今村富子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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