夢十夜
投稿日:2007年3月23日「名作」の人達と識り合ってから二十年近くなるか。みんな年をとった。五、六人はあの世に行ってしまった。残った人たちで楽しく本を読んでいる。
司会役の僕は、今日は十三人か、と出席者の数を算える。終って部屋を出るとき、後姿がひとりくらい増えてることがある。Nさんか。いつ入って来たのかな。久し振りである。そういえば、今日の本はNさん好みだなと思い付く。そして、Nさんが二年前にガンで死んだことも思い出す。どこに座っていたのか。TさんとKさんの間か。
忘年会のときに、花いちもんめ、あなたが欲しいッてNさんが迎えに来てたよ、ってTさんとKさんに教えてやるか。
こんなふうな想像を漱石の「夢十夜」は楽しませてくれる。
街並を風がゆるやかに吹き抜けるように、ごく平凡な生活を送る私達の心の中にも、悲しく怖いミステリーが存在するんだよ。おまえさんが気付けばね、と漱石は教えてくれる。
名作読書会 林 一夫