家守綺譚
投稿日:2007年1月26日それはついこのあいだ、ほんの百年少しまえの物語、と帯に書かれて表紙には南天の赤い実が浮かんでいる素敵な装幀の本です。
サルスベリに始まる物語は、花から実まで二十八編で、そのサルスベリの木に惚れられたりするが学士綿貫征四郎という登場人物で、学生時代に亡くなった親友の実家の家守を始めた和風の庭にある樹木なのであります。
この出だしから引き込まれて、こちらまでふんふんとうなずいてしまう話なのです。
掛軸の中からボートで、亡くなった親友が訪れたり、その親友の高堂のことを書けと、原稿を取りに来る山内、居ついた犬の餌を届けがてらたずねてくる隣のおかみさん、和尚さん、河童、白竜、カワウソ、四季おりおりの天地の自然の「気」たちと新米精神労働者の「私」と庭つき池つき電燈つきの二階屋との明治時代、こんなのびやかな人間と生きものとの交歓、さもありなんと思う書物です。
緑ヶ丘読書会 菅谷久枝