もの食う女

一般書

投稿日:2006年12月26日

武田泰淳 著

主人公の「私」、それに弓子と房子・・・この三人からなる話である。
弓子は知的な女性で新聞社に勤めている。一方房子は神田の喫茶店で昼の十二時頃から夜の十時まで立ち働いている。
この二人の女性の間で「私」の心は揺れ動く。弓子は男をひきつける顔立ちで、「私」は彼女にほれこんでいる。が、彼女は何かと忙しく、そう頻繁に会えるわけではない。弓子のおかげでいらだった神経も、房子と会って食事を共にすることで「私」は疲れを癒し深い安らぎを得ることができる。
弓子は、いつも「食欲がないのよ」と口にする。実際食べるものによってはジンマシンが出たり腹痛をおこしたりする。それに対して房子のほうは、何もかもじつに嬉しそうに食べる。
<私はビールを飲みながら、房子がたちまち三皿の寿司をたいらげるのを眺めていました。それはムシャムシャという感じではなく、いつのまにかスーッと消えてしまった風でした>
房子の、食べること食べること。豆ヘイ糖とハッカ菓子、アイスクリーム、渦巻パン、とんかつ、アイスキャンディ・・・・・。
そんな房子に「私」は次第に惹かれていく。
この房子という女性、生きることを素直に表出する、なんとも魅力に溢れた女性だが、それもそのはずで、この房子は後の武田泰淳夫人、百合子さんがモデルだといわれている。
栞読書会 青木笙子

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