「犬が星見た」
投稿日:2006年11月24日武田百合子著 中央公論新社
「星など見えはしないのかもしれないが・・・頭をかしげ、ふしぎそうに星空を見上げて動かない」犬が自分であった、と作者は書きます。
本書の魅力は、作者の親しみやすい個性によるのか、ていねいな描写や、ちりばめられている絶妙な言葉の力によるのか。「鳥たちは広い空間をまるで進まず、はばたいているだけのように見える」そんなロシアの大陸を行く、すばらしい旅行記です。人間観察も痛快です。「その日食べたものを列挙するだけでもいい」と、そもそも作者に書くことをすすめてくれた夫の武田泰淳さんに感謝。この作品のなかでも、「富士日記」など他の作品のなかでも、食べ物というものの、読んでいてなんと楽しいこと!食べっぷり飲みっぷりの、なんと感動的なこと!
当会の会員は、アカデミー愛とぴあの一サークルである「随想を書く会」のメンバーが大半です。作品の内容ばかりでなく、書き方についても話しあうことがあります。たとえばこの作品の場合、紀行文ってこんな風に書けばおもしろうのか、こんな風になら書けるかもしれない?・・・なんてことば、絶対に無理なのでした。これはもう、百合子さんの目を通してこそ成立した世界なのですから。
名作読書会 海本みどり