狐物語
投稿日:2015年10月23日『狐物語』
レオポルド・ショヴォー編・画 山脇百合子訳
福音館書店 2015年6月 2,300円
昔々,アダムとエヴァは,神様が食べてはいけないと言った果物を食べてしまったため,楽園から追い出されました。神様は,アダムにハシバミの棒をわたし,その棒で海をたたいて人間に役立つ動物を出すように命じました。そして,棒をエヴァに絶対に使わせてはならないこと,さもないと困ったことが起こることをアダムに言い聞かせました。ところが,エヴァがアダムの目を盗み,棒で海をたたくと,邪悪な生き物が出てきました。その一つが狐で,その子孫が本書『狐物語』の主人公,性悪狐のルナールです。
ルナールは,仲間の動物たちをだましたり,罠に陥れたり,動物や人間をひどい目にあわせました。あまりの悪さにたまりかねた動物たちは,国王であるライオンのノーブル王に訴えますが,全く効き目がありません。ルナールはノーブル王の重臣として頼りにされている家来でもあったのです。
このお話は,フランス中世に成立した動物叙事詩の代表作で,ルナールの登場からその死に至るまでの出来事が,詩の形で語られています。原書『狐物語』の成り立ちについては,12世紀後半ピエール・ド・サン=クルーという人によって数篇からなる作品として描かれのち,13世紀中ごろまでに,何人もの作者たちによって新しいお話が次々に加えられて,今日の形で残っています。
本書は,1928年フランスの作家・画家であるレオポルド・ショヴォーが子ども向けに語り直し,挿絵を描いた『狐物語 年若い読者のための現代語版71点の挿絵入り』を訳したものです。ショヴォー自身による挿絵は,遠近法と省略を大胆に用いた動きのある構図で,デッサン力に裏付けられたシンプルな白黒の線画で描かれており,この作品の魅力を一層引き立てています。
性悪狐ルナールが知恵の限りを尽くし森の動物たちとわたりあい,また,ノーブル王が君臨する宮廷にあっては,奔放に策略をめぐらす痛快なお話をぜひお楽しみください。