光のうつしえ-廣島 ヒロシマ 広島-
投稿日:2014年5月8日『光のうつしえ-廣島 ヒロシマ 広島-』
朽木(くつき)祥(しょう)作 講談社 2013年10月
1300円
夏の日がようやく暮れると,橋のたもとで灯籠流しが始まりました。原爆投下から25年目の夏,希未(のぞみ)の隣で母は二つの灯籠を流しましたが,一つの灯籠には名前が書かれていませんでした。6年生の希未は,「あれは誰の灯籠なんだろう」とふしぎに思いました。家に帰る途中,祖母ほどの年齢の老婦人に年を聞かれ,「十二歳です」と答えると,納得しかねるようにさらに母の年を聞かれ,「……四十二です」と言うと老婦人は「ごめんなさいね、ごめんなさいね」と涙を流して去っていきました。
翌年中学生になった希未は美術部に入りますが,いいなずけのお墓に詣でるいつもと違う表情の顧問の吉岡先生の姿を垣間見ます。やがて,希未たち美術部員は「あのころの廣島とヒロシマ」をテーマに文化祭に向けて活動を始めます。あの日息子を亡くした人や吉岡先生たちの思いを知り,希未たちは,それぞれの思いを絵や彫塑に託して作品作りに取り組んでいくのでした。
平和に暮らしていた人々の運命を一瞬にして変えてしまった原爆投下。生き残った人々が大切な人に伝えられなかった思いの数々と,その思いを受け止めることで成長する中学生たちの姿が,広島弁の優しい響きからひしひしと伝わってくる作品です。希未に声をかけた老婦人が一体誰であったか,母と老婦人の間に時を経て通じる思いに触れ,読後静かな感動が心の奥深く広がっていきます。原爆投下から70年近くを経た現在,今の広島には体験を語ってくれる人はわずかしかいないという現実を思うと,この本を若い世代に手渡したいと願わずにはいられません。