空へのぼる

児童書(こども)

投稿日:2012年10月26日


『空へのぼる』
八束澄子著 講談社 2012年
1300円

小学5年生の乙(おと)葉(は)は,15歳年上で庭師の仕事をしている姉の桐子(きりこ),そしておばあちゃんと3人で暮らしています。乙葉たちは「おばあちゃん」と呼んでいますが,本当は実のおばあちゃんの妹です。乙葉の両親は,乙葉がまだ赤ちゃんのころにうまくいかなくなり,子どもたちを置いてそれぞれ家を出ていってしまいました。幼い乙葉を抱えて中学生の桐子が途方に暮れているとき,二人を引き取ってくれたのが「おばあちゃん」でした。おばあちゃんの家で何不自由なく姉妹一緒に暮らせることに感謝し,喜んでいた乙葉と桐子でしたが,二人の心にはいつもどこかで両親に置いていかれたという事実が引っかかっていました。
2学期になると学校では「いのちの授業」が始まりました。保健室の先生や助産師さんから話を聞いたり,赤ちゃんとお母さんに学校に来てもらったりして,いのちの誕生の不思議を学ぼうという授業です。
乙葉はこの「いのちの授業」が好きでした。普通の勉強と違って,どきどきするからです。特に助産師さんから,赤ちゃんが生まれてくるときにはお母さんもがんばるけれど,赤ちゃんも心臓の動きを止めたり,頭を小さく縮めたりして,自分の力で一生懸命がんばって生まれてくるのだという話を聞いたときには感動し,乙葉も自分が生まれてきたことに誇りが持てるようになりました。
また「いのちの授業」を通して,クラスメイトの兄弟や家族の話,その子が生まれたときの話を聞いているうちに,誰もが自分と同じようにいろいろな思いを抱えているのだと気付くこともできるようになりました。
そんなとき,姉の桐子の妊娠がわかります……。
乙葉と桐子それぞれの視点で語られる章で交互に構成されており,家族やこれから生まれてくる赤ちゃんに対する二人の思いや悩みがよく伝わります。
様々ないのちのあり方と向き合ううちに,二人が抱えた思いは少しずつ解きほぐされていきます。最後に周りの人たちに支えられ,励まされ,温かく迎えられて,赤ちゃんが生まれてくる場面は感動的です。
乙葉と桐子が感じたいのち,そして生まれてくることの素晴らしさが読者の心にも響く1冊です。
児童書おすすめの1冊。小学校高学年向き。

『空へのぼる』を図書館で探す