父さんの手紙はぜんぶおぼえた

中学生・高校生向

投稿日:2012年3月8日

タミ・シェム=トヴ著 母袋夏生訳 岩波書店  2100円
2011年

主人公はオランダに住む,10歳のユダヤ人の少女です。第2次世界大戦中,ドイツ軍によるユダヤ人迫害が始まり,各種の禁止令が出されます。ある日少女の父親は身の危険を感じ,一家はそれぞれの場所に身を隠すことになりました。少女は名前をリーネケというオランダ人らしい名前に変え,父親が偽造した身分証明書を持ち,村医のドクター・コーリーの姪というふれこみで,たった一人小さな村に住むことになりました。
村での生活は穏やかで,リーネケ自身も友人ができ,勉強が出来て校長先生から褒められるなど,嬉しいこともありました。しかし,一方で決してユダヤ人であることを知られないように,気の張り詰める毎日でした。
そんな毎日に,心躍ることがありました。それは,父さんからの絵入りの本のような手紙です。父さんの手紙は,ユーモアと愛情に溢れ,少女を勇気づけ,励ましてくれるものでした。が,読み終わったらすぐに村医に返さなくてはなりません。万一,この手紙が人手に渡るようなことがあれば,多くの人の生死に係るものだからです。
戦争の悲惨さを伝える作品は数多くあります。今回ご紹介した「父さんの手紙はぜんぶおぼえた」は,悲惨さを伝えるだけでなく,父さんの手紙の中に,平和だった毎日の暮らしと家族に対する愛情を描いた作品として,子どもから大人まで多くの人に読んでいただきたい1冊です。

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