南京の基督

一般書

投稿日:2012年1月12日

芥川龍之介著
1968年 1円より

数々の名作を残した芥川の作品の中で、これも短いながら、大変心に残る一遍です。話は、旅人が南京に行って聞いたことから始まります。
幼くして洗礼を受けた少女「金花」は母亡きあと、病父を養い、生きるため、賎業を選ばなければなりませんでした。やがて彼女は業病に罹ってしまいます。他人に移せば治るという巷の噂の陰で、移すことを神に恐れ、悩み、十字架に祈るばかりでした。やがて、生活に行き詰まってしまいます。ある夜、見知らぬ男が現れます。彼女の中で、基督の出現と受け止められ、夢の中で、行為を肯定します。次の朝、男の姿はありませんでした。金花は病が癒えていることを知りました。
これは、彼女の心情風景のなかで、ただ祈るだけの女から、自らの「死」と引き換えに選び採る生き方で、ここに光があてられ、さわやかな金花の世界が描かれていきます。
一方、旅人の語り手は、例の男が業秒病を得て発狂した現実を知っていました。
作品はこのように非科学的話と現実の話の二重構造になっていますが、流麗な文章をもって読者を引き込みます。ここにも近代文学の感動があるのではないでしょうか。
紹介:互葉読書会 水越康子

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