一般書

投稿日:2008年12月10日

林芙美子 作
講談社 1992年 951円

『──戦犯大臣が死刑台に立って死んだあと、その骨を貰いたいと大臣の夫人が嘆願していると云うことを新聞で見たけれども、道子はその記事を見て、急にわあっと声をたてて泣きたくなっていた。冷たい雨夜の街に出て、道子は男をひろうのだ』
小説の主人公・道子の夫は戦死、空っぽの骨箱だけが返された。子供の笑子と、病で動けない自分の父親と、肺結核で寝たきりの弟との四人暮しの生活は、道子の肩にかかっていた。生きるために、倫落していかざるを得ない苦況に追い込まれた。女の絶望感、虚無の先に見え隠れする、したたかさと悲しみ。作者はそのすべてを掬い上げ、描く。
芙美子の小説の世界を裏付けるように、宮本常一は「女の民俗誌」(岩波現代文庫)のなかで、昭和二十七年八月、故里・久賀の年齢階級別人口の調査をした際に気付いたこととして、次のように記している。『戦争の犠牲は戦場で死んでいった男たちや、戦災で無惨に死んでいった国民たちばかりでなく、その家をあずかり、その生産を引きうけていた力弱い主婦の上に最も大きく要求せられたように思うのです』
戦後の林芙美子は、戦争で運命を狂わされた庶民の姿を、それが作家の義務でもあるかのように、ひたすらに描いた。
柏読書会     大出きたい
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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