鎌倉のおばさん
投稿日:2007年10月14日この作品は、村松氏のルーツを知る上でも興味深い内容でしたので推薦いたしました。「鎌倉のおばさん」とは、友視氏の祖父である文士、村松梢風の愛人で、終戦後鎌倉に三百坪の邸を購入し、昭和三十六年に梢風がなくなるまで住み、そのあともさらに三十四年その家に一人で暮らし、梢風の未亡人の役を演じぬいた人です。
梢風という人は、一般的に考えると不思議な神経の持ち主でした、その日常からは妻子と家庭がすっぽりぬけていて、女性のもとを転々とし、また一時期は上海に渡りそこでも愛人をつくり日本へ連れて帰る、という具合です。
そういう夫、父に対し誰も異議をとなえる者はいなかったのです。梢風が一家のなかでも飛び抜けた存在であったせいでもあるでしょう。
鎌倉のおばさんは、梢風が自信を持てるように背中を押し、彼女好みの文士に仕立て上げ、鎌倉の家に落ち着かせたのです。
彼女は“虚言癖”“作話症”があると言われていましたが、おばさんと著者がたまに逢って交わす会話は、掛合い漫才のように弾んでいて楽しそうです。
終りのほうで著者は書きます。「俺にはフィクションを支えにしなければ心もとない時間の連続だった。梢風が去ったあと、フィクションとたわむれる日常を送らざるを得なかった『鎌倉のおばさん』と同じ病気ってわけか」。そのつぶやきは、おばさんへの愛情が伝わってくる言葉でした。
宮の下読書会 押切 よし子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ