野火

一般書

投稿日:2009年8月10日

大岡昇平 作
新潮社 1954  340円

太平洋戦争末期、フィリピンのレイテ島。胸を病み喀血した『私』こと「田村一等兵」は、敗北が濃厚になった日本軍本隊から、芋六本で追い出される。
彼は病院にも受け入れてもらえず、同じ状況にある兵士たちと連れだって、または一人で極度の飢えと衰弱に苦しみながら、米軍の攻撃やゲリラから逃れて山野を彷徨する。野草や自分の体についた蛭まで食べるという極限の飢餓のなか、兵士たちは猿の肉と称して屍肉を奪うようになる。
『私』も「自分が死ねば食べてもいい」と言って亡くなった兵士の屍体を食べようとして剣を抜くが、左手が無意識のうちに止める。「汝の右手のなすことを、左手をして知らしむなかれ」という声が聞こえてくる。神は作品の中に暗示的に現れてくる。
米軍の捕虜となり一命を取りとめた『私』は終戦後、東京郊外の精神病院へ入院する。
戦場の草原のあちこちで高く上がっていた野火が、心象風景として彼の中に現れる。
「火が来た。理由のない火が・・・・・・口を開いて迫って来る。煙の後に、相変わらず人間どもが笑っている」
彼は、野火の中に何を見たのであろうか。
妻とも別れ、狂人として病院で過ごす『私』は医師の勧めで悪夢のような戦場を追想し、手記を記す。
『野火』は戦争の悲惨を感じさせるだけではなく、人間性を根本的なところで問いかける重い作品である。
染地読書会   土井芳江
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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