西行花伝

一般書

投稿日:2009年3月10日

辻邦生 作
新潮社 1999年 900円

── 願はくは  花のしたにて  春死なん
そのきさらぎの  望月の頃 ──
有名な西行の歌である。西行はその生涯を心して歌一筋に生きた人である。それはすさまじい歴史のうねりの中にあって尚、祈りにも似た思いで歌に勤しむのであった。
鳥羽院北面武士に伺候した日、平清盛との出会いがある。彼も北面の武士で同年齢であったという。二人はその後、別々の道を歩む。
鳥羽院の女御待賢門院を心から慕ってしまった西行は、出家し隠遁生活に入る。二十五歳であった。
身分の差がなくなり僧侶となってからの働きは目覚ましい。陸奥の旅、四国の旅、そして高野山への寄進と多忙をきわめるなかで、世の中を見る目の確かさが備わる。
京の都に在って心を痛めたのは、崇徳院の苦しみの対決であった。その中にあって歌の道はいよいよ深められ、一切を放棄し、森羅万象のたたずまいを大切に思う事と説いていくのである。
本の中に「よみ人知らず」について易しく解説した章に出遭った。「よみ人知らず」とは、歌が上手であっても身分の低い人、高貴な方、一族の参加者が多い場合等に用いたという。
かつて若き日の西行も、「詞花和歌集」の時には、「よみ人知らず」として扱われ選入一首のみであったが、その後三十六年を経ての「勅撰集」には、十八首もの選入を得たのである。
桜の気品をめでた西行は、その花盛りのもとで七十三歳の生涯を終える。
柏読書会   御園生きく江
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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