蕨野行(わらびのこう)

一般書

投稿日:2009年2月10日

村田喜代子 作
文藝春秋 1998年 500円

貧しい押伏村には六十歳を過ぎると蕨野という丘へ棄てられる掟があった。息子の後妻として嫁いできた若いヌイは何も知らされず姑を野入りに送って行く。
暗く悲しい内容を「お姑(ばば)よい」「ヌイよい」と嫁と姑の温かな心の対話で小説は展開される。野での暮らしは九人のジジババのワラビ衆と共に行動や生死を共にする。ここでの掟は名前を捨てること、物言わぬこと。
穏やかな春の日から冷たい夏、稔りのない秋、厳しい冬へと変わり、その間の二人の哀切な語りの中でヌイは寒村の真情を知っていく。
悲惨な話を読ませる力は何か。小説の中を流れているのは溢れるばかりの互いへの思いやり、感謝。会話は文語体、方言でもない、「………やち」「………なり」「………ありつる」などリズムを持った特異な文体で不思議な雰囲気をかもし出し、読者を引き込む。
飢えの極限を書いた描写は凄まじい。平和な現代では想像もつかないほどだ。
良い暗示もある。大雪は来年の豊作を思わせるし、お姑(ばば)はやがてヌイの娘として転生するだろうことも分かる。
この世とあの世の中間を描く作者独特の世界はあまりにも巧みだ。
読書の醍醐味を深く味わった。
名作読書会   林 あさ子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

「蕨野行」を図書館で探す