苦海浄土 わが水俣病

一般書

投稿日:2008年10月10日

石牟礼道子 作
講談社 1990年 700円

かの有名な水俣病は戦後公害の原点として心に刻まれていた。熊本不知火の沿岸では、猫が踊り狂って死ぬという最初の印象で、産業公害の恐ろしさを世に知らしめ世間を驚かせた。
この本に接したのは、読書会のテキストであったが、第一章「椿の海」の導入部からひき付けられ、目を放すことができなくなった。
そこに住む人々の素朴な方言で語り継がれる事実は精神、身体の苦痛に重ねて、生活を脅かし、人間性をも失わせ、何故こうなったかとも解らずに次々発病し被害が広がるおぞましさに慄然とする。
チッソ工場の裏がわの産物は遠慮なく海に排出され、カドミウムを含んだヘドロは何と三米も堆積され、当然の事として食べた魚に毒がしみ着いて、漁をなりわいとする人達は勿論、周辺住民に奇病は広がっていった。
イタイイタイ病と言われた病は公害として解明が遅れ、長い期間救済処置が取られなかった。チッソ工場や自治体、国は何をしていたのかと不信感がつのる。
しかし、この作品は単なるドキュメンタリーではない。作者石牟礼道子の悲痛な叫びは被害に苦しむ住民全体の怒り、悲しみ切なさであり、読者の心を揺らさずにはいない。そして全面を包む温情に作者の心がうかがえる。
時代は進み、公害は次々と発生し、いつも何所かで問題が提起される。マスコミは忙しく忘れっぽい。公害と言う恐るべき犯罪、人間が人間に加えた汚辱、水俣病を忘れてはならないと痛感した。
針布読書会  村越まつ代
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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