祭りの場

一般書

投稿日:2010年8月10日

林 京子 著
講談社 1988 1260円

昭和二十年八月九日、長崎市に投下された原子爆弾の爆圧などを観測する、観測用ゾンデの中に入っていた降伏勧告書文の文言から、この作品は書き始められる。そして、アメリカ側の編集による原爆記録映画の最後、「かくて破壊は終わりました」を結びの言葉とする。
このことからも分かるように、小説というより記録文学に近いものがある。そのことをよりいっそう強く感じるのは、被爆当時はまだ解明されなかった事実を、次々と文中に挟み込んでいることだ。
作者自身が被爆し、逃げまどうなかで見た地獄絵図を描くと同時に、出来うる限りの情報を作中に投入する。そこには事実を事実として正確にとらえ、それを間違いなく伝えたいという作者の強い意思が感じられる。
作者は、爆心地から一・三キロ離れた地点で被爆した。学徒動員として三菱兵器大橋工場にいたのだが、その工場には七千五百名が働いていた。そのうち六千二百名が行方不明だという。
〈昭和二十年九月二十四日以後の調べである〉という言葉が添えられている。
「私」のいる工場の建物の前がコンクリートの広場になっていて、その日、そこでは、出陣学徒を戦場に送る無言の踊りが踊られていた。踊りの輪には大学生も混ざり四十人はいたという。
原爆投下後、〈広場で出陣の踊りを踊っていた学徒らは即死、火傷の重傷者は一、二時間生きた。〉とある。
多摩川読書会   青木 笙子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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