神の子どもたちはみな踊る
投稿日:2010年1月10日小説の楽しみ方は、二通りある。
まず、先入観なしで本を手に取り、その内容を一気に読み進めていく。そして個人の感性に基づいて一つ一つの内容を自分の中に取り入れ、自分の経験や感想を深める楽しみ方だ。ここまでは、本を読む人は誰でもしている事だと思う。
そしてもうひとつの楽しみ方は、作者のこの本を書いた状況や考えを知り「そういう事だったのか」と驚き、感動し、そして新しい目でもう一度本に向かうというやり方だ。そうすると同じ内容でも全く違った見方ができ、違う本を手に取って読んでいるくらいの気がする時がある。
この「神の子どもたちはみな踊る」も短編だけで読むのと、短編連作集の一つとして「UFOが釧路に降りる」「アイロンのある風景」「タイランド」「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」をまとめて読むのとでは違う発見がある。
一つ一つの作品の中にどこか共通のものを感じとることができ、「一体何だろう。これは?」と自分の中に小さな疑問が残る。そして作者について調べた時、これらの作品が、一九九五年一月の阪神大震災と同じ年の三月の地下鉄サリン事件をおこした宗教団体がいたという事にいきつく。
作者はこの不安定な年に人々がどう暮らし、何を考え、どんな事をしていたか、を物語という形で私達に伝えようとしていた。
それを知った時、もう一度本を手に取り、今までとは違う見方で、この本を読んでいる私がいた。
草の実読書会 吉川智子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ