短編集「冬物語」

一般書

投稿日:2008年2月10日

南木佳士(なぎ けいし) 作
文藝春秋 1997年

作者は佐久総合病院の医師である。「冬物語」は、患者や土地の人々とのふれ合いを私小説風に綴り、十二の短編が収められている。
標題の「冬物語」は、医師になって二、三年目ワカサギ釣りに熱中していた頃、釣れると教えられた場所で湖に落ちたところを、園田かよさんに助けられる。かよさんは、脳出血の後遺症で三年前から寝たきりの夫を抱えて、ワカサギ釣りで生計をたてている。夫の安男さんは、たしかに回復の余地はなさそうだが、意識ははっきりとしていて、「いい笑顔をたたえて」いる。その頃の作者は、治療の成否とは無関係に、死すべきものは死んでいく冷酷な現実に、寝付かれない日々を過ごしていた。かよさんを師匠としてワカサギ釣りに熱中するときだけが心が安らぐのだった。二月初旬の朝、かよさんの夫が亡くなる。死亡を確認した作者がみたものは、「不思議になごやかな臨終の光景」だった。
三百余の死を看取ってパニック障害になった作者の、弱い者、心優しい者への共感ともとれる、人としてのやわらかなあたたかみが作品に充ちていて、静かなぬくみが読む人を包み込むように感じられる。と同時に、これはノンフィクションではない、小説であるなら、事実と虚構は奈辺にあるのだろうかと、探ってみたくなる作品集でもある。
心萎えたときに読んでみてください。
宮の下読書会          荻谷 美子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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