殉死

一般書

投稿日:2009年9月10日

司馬遼太郎 作
文藝春秋; 新装版版 2009 520円

乃木さんが逝かれてそのお屋敷は、一般公開となり、公園と神社になった。
昭和十年代の子供の頃、近くに住んで居たので(と言っても坂の下であったが)乃木さんへは、良く遊びに行った。
大阪の人が豊臣秀吉の事を太閤さんと親しく呼ぶ様に、私共は大人も子供も「乃木さん」「乃木さん」と親しみと敬畏をこめて表現していた。
正面から入るには乃木坂を登り切らねばならないが、当時は急で難所であった。入ると右手に煉瓦造りの馬小屋と続いて砂場。水飲み場からは、遠く山王神社の方迄見渡せた。左手には、乃木家の写真が飾ってあった。正装の乃木さん、袿袴姿の静子夫人。御子息勝典、保典、お二人は揃って軍服に背嚢姿で並んで撮ったものであった。
お住まいは一階より陸橋のある、二階のほうが拝見し易い。東北の角は夫人の部屋であった。次の間に続いて自害されたお部屋がある。血痕のついた疊表は、掛け軸の様に、納められて立てて置かれていた。その場所は何時も静寂で、厳粛であった。
明治帝が、帝王学を受けられて尚、希典が好きとされてしまう乃木さんの人間像は、作者の誠実な記述にくわしく、頭の下る思いである。
乃木さんにとって殉死は、若い頃軍旗を失った時からの覚悟と察するが、静子夫人は当夜、十五分前に決められたと本にある。咄嗟のその心境は計り知れない。
九月十三日は乃木神社の例祭である。
柏読書会 御園生きく江
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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