宣告

一般書

投稿日:2010年2月10日

加賀 乙彦 作
新潮社 2003 700円

拘置所の朝は食事運搬車の重い音で始まる。死刑の宣告を受けた囚人達が収容されているゼロ番区は結構騒がしい。鉄格子の窓から通話、祈りの声、読経、歌声、泣き声。しかし朝の足音には敏感だ。今朝こそは、お迎えが来るのではないか、という恐怖だ。彼らはその恐れから何らかの精神不安症状を持つ。
若い精神科医である近木はゼロ番区といえども犯罪者としてではなく、一人の人間として向き合い、話し合い手となり心に寄り添う。
T大出の楠木は、インテリの家族ではあるが、物欲の争いが絶えない家庭に育ち、人間が信じられない。金のために殺人を犯す。神父の導きで洗礼を受けるが、墜落感発作症状に襲われる。
叔父一家殺害の大田は飼っていた小鳥が死ぬと、自分の番だと言って発狂。学生運動の内ゲバで数人も処罰し、獄内でも革命を唱えていた唐沢は自殺。
七人の女性殺しの砂田は硝子片での無数の傷跡があり、暴れるが近木の暖かい眼差しに触れ、解剖用遺体として役に立てることを誇りに思うと語り、消える。
教育熱心な父に部屋に監禁され勉強を強いられた安藤は、離婚した母の家を探すうち、少女を強姦、殺害、殺人犯となり、獄内で泣き、笑い続ける。
この小説は精神科医の著者が実際の勤務体験から観察した人間像を二十年の後、書き上げた。犯罪を犯す青少年達の裏には何があるのか。最近の殺人を犯す青少年たちを思い、その背景と、死刑とは、をつきつけられる。
柏読書会   今村富子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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