博士の愛した数式
投稿日:2010年5月10日博士と呼ばれる数学者、交通事故がもとで八十分しか記憶が持続しない。その博士の家に家政婦紹介組合から派遣された「私」が訪ねていくところから話が始まる。
博士は数学を愛する気持ちがいつも心にあり、それを他者に伝えようとする。たとえば「私」が初めて家を訪ねた時、博士は「私」の靴のサイズを訊く。「24です」と答えると、「ほお、実に潔い数字だ。4の階乗だ」と褒めたたえる。「私」の家の電話番号、誕生日、野球観戦に行った時の座席番号など、博士にとって数字はすべて意味を持つ。
博士は〈素数〉が好きだ。どの数によっても割ることのできない〈素数〉。それは博士の孤独な存在、単独者を象徴している。
この作品は数学のすばらしさをうたっているが、それと同時に、いかに子どもは大事か、大切にしなくてはいけないかが博士によって語られる。
「私」の息子が一人で留守番をしていると知った時の博士の驚き。「私」にその子を家に連れてくるようニと命ずる。その子に初めて会った時の博士の喜びようといったらなく、その男の子の頭の形から、〈ルート〉と名付ける。
博士と「私」とルート。人間と人間とを結びつけるのは言葉だけではない。数学もまた言葉同様、ひとが心を通い合わせるのに大事な役割を果たすもののようだ。
数学は算術の世界だけとは限らない。数学にもロマンティシズムは存在する、そんなことをこの作品は教えてくれる。
月曜読書会 青木笙子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ