五重塔

一般書

投稿日:2009年12月10日

幸田 露伴 作
岩波書店 1994 420円

主人公は十兵衛という小才の利かぬ頑固な性格、技量はあるが世渡り下手な寺社建築大工で周囲から「のっそり十兵衛」と悔しいあだ名を付けられている。
感応寺に五重塔建立の噂を聞くや、寺に乗り込み「自分にやらせて下さい」と平伏懇願する。許しが出ると一身を捧げ魔性に憑かれたように没頭する。完成後未曾有の激しい嵐に遭うが、塔は悠然とその美しい姿を聳え立たせていた。
ご上人からも信頼厚い兄貴分の川越の源太の好意を忘れてはならない。ご上人の仏説もあり、仕事は十兵衛に譲り、なお温かいアドバイスを何度も与える。その都度けんもほろろに断る。
嵐という人為を超えた自然の力に対し、十兵衛の技が見事に打ち勝つ様が心地良い勢いで生き生きと書かれている。
落成式にご上人は、塔の銘に「江都の住人十兵衛これを造り川越の源太郎これを成す」と墨書両者に花を持たせた。爽やかな読後であり、楽しかった。
が、その後十兵衛は立派な棟梁として、仕事に恵まれ輝かしい幸せな生涯を送っただろうか。生来の性格は一朝一夕には直らないので、やはり貧しい生涯になったのではと一抹の不安が過ぎる。
多摩川読書会   藤橋愛子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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