すばらしい新世界

一般書

投稿日:2009年4月10日

池澤夏樹 作
中央公論新社 2003年 1300円

主人公、甘野林太郎は技術系会社の中堅サラリーマンであるが、環境問題に取り組んでいる妻、アユミのNGOからの話を受け、思いもよらない旅立ちをすることになる。
彼本来の電力製造機や発動機とは異なり、ごく小さな風力発電機をネパールの奥地の村に設置する仕事である。ヒマラヤからチベットへの強い風を利用して、数多くの小型風車により発電する、ということは、高い山々を命がけで馬で越えるという危険性を伴う。空気の薄い高地で、現地の人々と協力し厳しい条件のなかで、共に生活し奮闘する。
その地で見たこと、感じたことを、妻や長男(小五)と、文明の利器でeメールを交し合う形で物語は展開する。
秘境の地で生きる人々の環境や生活習慣、宗教に裏打ちされたおだやかな人生感に圧倒される。先進国という日本に暮らす自らをも含めて考えることになる。科学や技術、教育、利益優先型の社会、ODAの在り方、より安楽にぜいたくにと欲望をつのらせる人々──。
この三人のメールには夫婦や親子間の思いやりと、問題点を共有し合い、お互いを大切にするあたたかさが満ちている。
平易な文体で民族や国境を越えるべき何かを構築する知恵の必要性、先ず小さな単位(個人や家族)毎に自然と向き合い、共に生きる大切さ。その先こそ未来もあるのでは?とのメッセージを私は感じた。
緑ヶ丘読書会   藤嶋郁子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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