『真昼へ』

一般書

投稿日:2011年4月28日

津島佑子著
新潮社 2003年 1500円

作品は、「泣き声」「春夜」「真昼へ」の三部で構成されている。障害のあった、作者の亡き兄。事故で夭折した、最愛の息子。女手一つで、子どもを育てた母親。肉親との想い出は沢山あるが、しかし、その記憶は、自分本位で、正確さに欠けていることに気づき、改めて、それを見直して、自分との絆の太さを知り、作品に昇華する。
作者は、亡くなった人々を、自在に蘇らせ、自分と共に生きる。しばしば夢と現実が入れ代わり、物語に自然に描いて行く。
第三部作「真昼へ」のラストで、家族と暮らした居間の、前にある大樹の、梢の間から、昼の光と共に降り注ぐ、亡き息子の、眼差しに、至福の時を過ごす。この巧みな描写は、読者の胸にしみるものがある。
このように、著者は宿命的に、生と死の問題を抱えて、創作に向かう。そこに、揺らぐ心を、如何に寛容と安寧に導くか、問うているように思う。息子を亡くした、絶ち難い思いは、近作「ナラレポート」に引き継がれ、時空を越えて母と息子の、呼び交す心情を奈良時代に舞台を借りて、長編に書き上げられている。
互葉読書会   水越康子
読書会おすすめの一冊。
紹介:アカデミー愛とぴあ

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