「自分の木」の下で

一般書

投稿日:2007年5月25日

大江 健三郎  朝日新聞社 (2001/06)

この作品は、作者が若い人に向けて、良心的に、誠実に語りかけたものである。朴訥な不器用ともいえる語り口のなかに、作者のもつ知性、優しさが滲み出ている。
作者は、子供の教育の仕事に携わったことはないものの、障害を持って生まれた長男を通して深く経験し、考えることがあったと思われる。若者の未来を、憂いを交えて、それでも希望を失うことなくみつめているように思う。
老人の入り口にいる私にとっても、参考になることの多い本であった。本当の知性の持つ強さ、豊かさを教えられた気がする。作者が「人生の習慣」とよんでいる習慣の力。「うわさ」に抵抗し、自分の目で確かめ、自分の心で考えることの重要性。少しずつ読書の力を鍛え、広げていく喜び。辞書を友に、一つの外国語を極めていく嬉しさ。どうすればよいかわからない問題に、それを括弧にいれて、時を待つことで対処していく方法。
いずれも、静かで、力強い知性に対する憧れを呼び覚まし、今からでも遅くないという勇気を与えてくれる。父の遺してくれた英文の小説に挑戦してみようかと思っている。
染地読書会 藤田裕子

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